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Bitcoinと資金決済法の規制対象

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昨今のMt.Goxの民事再生手続申請を契機として、日本においてもBitcoinを法的規制対象に含めるか否かが議論されています。とりわけ、最近のニュースでは、自民党IT戦略特命委員会の平井委員長が、「今後は消費者保護の観点から日本における法規制を勉強していく。既存の法律で対応するのか、新しい枠組みを考えるのか、何らかの規制はすべきという考え方で進んでいきたいし、実効性のある規制の方法を考えたい」[1]と述べていることが注目されます。

そのような中、これらに先だって、渡邉雅之氏による記事「Bitcoinは合法なのか?」NBL1018号(2014.2.1)7頁(以下「渡邉記事」といいます。)において、Bitcoinが資金決済法の規制対象に含まれるとする主張を展開しました。そこで、本稿では、本当にそうなのかを検討するともに、法的な電子マネーとBitcoinとの違いを明確にしていきたいと思います。(結論としては、規制対象ではないと考えます。)

資金決済法(以下「法」と略します。)については、後藤あつしさんの「ビットコインの法律と税金について考えてみよう」記事で説明がされています。これを本稿に関連する部分について、かいつまんで説明すると以下のようになります。

○法的な電子マネーは、「前払式支払手段」(法3条1項)として規制対象に含まれる。

○「前払式支払手段」は、

  第三条 この章において「前払式支払手段」とは、次に掲げるものをいう。

   一 証票、電子機器その他の物(以下この章において「証票等」という。)に記載され、又は電磁的方法(電子的方法、磁気的方法その他の人の知覚によって認識することができない方法をいう。以下この項において同じ。)により記録される金額(金額を度その他の単位により換算して表示していると認められる場合の当該単位数を含む。以下この号及び第三項において同じ。)に応ずる対価を得て発行される証票等又は番号、記号その他の符号(電磁的方法により証票等に記録される金額に応ずる対価を得て当該金額の記録の加算が行われるものを含む。)であって、その発行する者又は当該発行する者が指定する者(次号において「発行者等」という。)から物品を購入し、若しくは借り受け、又は役務の提供を受ける場合に、これらの代価の弁済のために提示、交付、通知その他の方法により使用することができるもの

   二 (略)

と定義されており、その要素をまとめると以下の3つになります。

①金額等の財産的価値が「証票等」に記載又は記録されているものであること(価値の保存)

②金額に応ずる対価を得て発行される証票等又は付合であること(対価発行)

③当該証票等又は付合を、代価の弁済又は物品の給付若しくはサービスの提供の請求に使用できること(権利行使)

○前払式支払手段には、発行者に対してのみ権利行使ができる「自家型」(法3条4項。e.g.itunesカード)と、発行者のほか加盟店にも権利行使ができる「第三者型」(法3条5項。e.g.Suica、楽天edy)がある。

○発行した自家型前払式発行手段の未使用残高が基準日において基準額である1000万円(法14条1項、資金決済に関する法律施行令(以下「令」といいます。)6条)を超過した場合には、所管財務局長に対して(法104条1項、令28条1項)、届出を行う義務がある(法5条1項・112条1号)。一方、第三者型前払式支払手段を発行しようとする者は、法人であることを要し、内閣総理大臣による登録を要する(法7条)。

○前払式支払手段発行者は(自家型でも第三者型でも)、基準日未使用残高が1000万円(令6条)を越える場合には、当該基準日の翌日から2ヶ月以内に(前払式支払手段に関する内閣府令24条)、当該基準日未使用残高の1/2以上の額(要供託額)に相当する金銭を、発行保証金として主たる営業所又は事務所の最寄りの供託所に供託しなければならない(法14条1項)。

さて、渡邉記事9頁は、法3条1項の「定義は、①書面の前払式支払手段のほか、サーバ型の前払式支払手段も対象としており、②下線のとおり、金額を他の単位に換算して表示していると認められるものも含む。ビットコインは、サーバ型で、現実通貨に換算できることから、「前払式支払手段」に該当すると考えられる。」としています。

「前払式支払手段」に該当するための要件は、上記で述べたとおり、①「証票等」における価値の保存、②証票等又は付合の対価発行、③証票等又は付合の権利行使であり、確かに、BTCは、コンピュータに記録されている点で①を、その記録されたBTCを事実上の通貨(ただし、強制通用力はない)として弁済に用いることができる点で③を充たすとも考えられます。しかし、BTCには、発行者というものが存在しませんから、記載又は記録された「金額(金額を度その他の単位により換算して表示していると認められる場合の当該単位数を含む。以下この号及び第三項において同じ。)に応ずる対価を得て発行される」とはいえず②を充たさないので、「前払式支払手段」には該当しません。仮に、「前払式支払手段」に該当すると言ってみたところで、発行ないし管理する中央機関が存在しない以上、誰が発行者なのか不明確です。発行対価を得ているものが発行者と考えるのが素直ですが、開発者のNakamoto SatoshiはMinerから発行対価を得ているわけではないですし、BTC取引所は既に存在するBTCの売買仲介をしているだけです。そうすると、やはり、資金決済法上も、BTCに発行者はいないと考えるほかはなく、発行者の存在を前提にした現在の資金決済法に基づいて規制するのは無理というべきです。

このように考えていくと、発行体がいないというBTCの特徴は、電子マネー・紙幣・株式・債権等について発行体の存在を前提に構築されてきた既存の法的枠組みでは捉えきれない性格を持っていると言えるのではないでしょうか。


[1] http://www3.nhk.or.jp/news/html/20140305/k10015738271000.html

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