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ハイエク『貨幣発行自由化論』要約(1)

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ビットコインの理論的源流として、ハイエクの『貨幣発行自由化論』(1976)が持ち出されることがあるようです。川口慎二さんの翻訳をベースに、この本の簡単な要約を作ってみました。

本のタイトルである”貨幣発行自由化論”は、Denationalisation of Moneyを訳したものです。『ハイエク全集II-2 貨幣論集』(春秋社)では、”貨幣の脱国営化論”と訳されています。手元の辞書を見ると、denationalizationの意味は、changing something from state to private ownership or controlとあり、”from state”に重心を置くか、”to private”に重心を置くかで訳が変わってくるということなのでしょう。私は”貨幣発行自由化論”という表現の方が好きです。

川口さんは、あとがきで、「ハイエクの積極的な提案内容に即して、『貨幣発行自由化論』という訳書名を付することとした」と述べています。また、訳書名を付するに際し、「かつてケインズの『貨幣改革論』が管理通貨制度の夜明けを示す象徴的な著作であったことと対比して、約半世紀を経た今日に管理通貨制度の廃止を求める記念碑的な著作としてハイエクの『貨幣発行自由化論』が登場したという意義をこめた」とのことです。

一方、全集の解説では、”貨幣発行自由化論”を「内容を表す訳語として適切であるが、タイトルに込められた貨幣の国家独占への批判という意味が弱くなる嫌いがある」と評しています。また、「ハイエクの貨幣の脱国営化論で自由化すべきなのは、国家通貨の貨幣発行業務だけではなく、それに伴う貨幣名称、価値単位、準備資産の種類と量、発行運営方針」であり、”発行自由化”ではそれら全ての意味を包含できないのではないかと指摘しています。皆様はどうお感じになるでしょうか。

それでは、第1章から第5章までの要約をどうぞ。

第1章 実際的提案
・共同市場の加盟国は、それぞれの領域において、取引がお互いのどの通貨ででも自由に行われることについて、またそれぞれの領域内で合法的に設立されたどの機関によっても、銀行業務が自由に行われることについて、どのような障害も設けないことをお互いの正式の条約によって義務付ける。
・この提案は、粗悪な通貨が他の通貨によって直ちに排除されることを想定している。これにより、個々の国々は、通貨の価値を安定に保つことを強いられる。
・新しいヨーロッパ通貨が現在の国民通貨より上手く管理されるとは思えない。金融に関してより習熟した公衆を持つ国が、他国の有害な措置から逃れる機会を奪うからである。
・貨幣の自由な取引を、銀行業の自由な取引にまで拡大するのは、各国の金融当局が政治的に避け難い政策を実行するのを阻止するためである。
・我々の提案は、新しい国際機関の設立や超国家機関への権限付与を必要としない。各国の貨幣当局が誤った行動をとった場合にだけ、その国の通貨が追放されることになる。

第2章 基礎となる原理の一般化
・政府による貨幣供給の独占を廃止するだけでなく、公衆が好む別の貨幣の供給を民間企業に認めることは有益であり、理論的な考察の対象としたい。
・貨幣供給について、政府の独占が不可欠であるとする信念は、未検証の仮定にすぎない。政府独占が廃止され、貨幣供給が民間会社の競争に開放された場合の答えを我々は知らない。
・単一で同品質の貨幣を使用することで、計算術の普及や、価格の比較による市場の発展を促したのは確かである。しかし、今やその利点が欠点を上回っているとは言い難い。

第3章 貨幣創造についての政府特権の起源
・排他的な貨幣鋳造権は、政府にとっての主要な収入源であり、権力の象徴として役立った。公衆の利益という観点から認められたものではない。
・元来、政府の役割は、鋳貨の重量と純度の証明であった。それがいつの間にか、発行する貨幣量を計画的に決定することまでをも含むようになった。
・政府による貨幣の強制借入に対し、人々は受領書を受け取った。これが紙幣出現の発端である。政府独占で発行されている金属貨幣の請求権として紙幣が使われるようになった。
・歴史を振り返ると、金だけが安定通貨を供給でき、全ての紙幣は早晩減価するものと決まっているように見える。しかし、名目貨幣の価値を維持する技術的可能性は残されている。
・政府は、財源を拡大し、政府赤字を貨幣発行により補っている。雇用を創出するという口実に基づいてなされるのが常である。

第4章 政府特権の絶え間ない乱用
・紙幣が重要になり始める17世紀まで、貨幣鋳造の歴史は、鋳貨の金属含有量の引下げと商品価格上昇の物語である。
・貨幣の歴史は、政府の利益のために仕組まれたインフレーションの歴史である。インフレーションの正当化は何度も試みられている。
・法定貨幣の受け取りの拒否に対する刑罰の歴史がある。13世紀の中国では死刑、初期英国法では反逆罪、アメリカ独立戦争では敵対行為となった。
・我々は、購買力の著しい変動を防ぐために、通貨量を統制することが可能であることを知っている。これ以上、政府の無責任さを我慢することはできない。

第5章 法貨の神秘性
・債権者への債務の弁償が政府発行の貨幣でなされても、債権者はこれを拒否できないような種類の貨幣のことを法貨という。これは、すべての貨幣が法貨でなければならないことを意味しない。
・貨幣は、社会の進化の過程で自生的に生成したもので、政府によって貨幣が創造された訳ではない。
・契約と異なるものを債務者が支払い、債権者が受け取ることを法律が可能にしている。それは取引に課せられた強制的かつ不自然な解釈である。
・南北戦争後、ドルが高い価値を持っていた時に貸し付けた金銭債権の弁済を、現行のドルの額面で受け取らなければならないかどうかを争った「法貨事件」がある。
・税金をどの通貨で支払うか決定するのは政府の自由である。損害賠償や不法行為の補償のような契約によらない支払いは、裁判所がどの通貨で支払うべきかを決定する必要がある。

(続く)

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