23Dec
(Image from Bitcoin-chan Project)ビットコインなどの電子通貨は新しく登場した概念であり、かつ世界中で広がっているため、
法的な裏付けがまだ固まっていない状況にあります。
インターネットの登場時もそうでしたが、「新しい技術・概念」はまず利便性の高さから人々に受け入れられ、その後しばらく経ってから、法的な位置づけが整理され、違法な抜け穴に対する対処が行われていきます。
特にアメリカでは「新しい技術・概念」を先行して取り入れ、イノベーションから得られる莫大な先行者利益を確保しようとするカルチャーがあるため、官民一体となって非常に早い段階で「ポジティブ」に法的・社会的な位置づけの整理、ビジネス環境の整備を行い、市場を一気に押さえてきます。
一方、日本では「新しい技術・概念」について「怪しい」という「ネガティブ」な視線で見る傾向が強いため、イノベーションによる先行者利益を手に入れることが難しいという傾向があります。
日本では伝統的に、イノベーション的な概念変化に伴う大きな利益ではなく、後追い的な仕組み内部での「改善」の積み重ねで利益を確保してきました。
しかし製造業から知識集約型へ成長ドライブがシフトしていく中、後追い的な「改善」で得られる利益は減る一方で、イノベーション的な概念変化をまず先行して取り入れたところが利益の大部分を独占するようにビジネス環境は変化しています。
ビットコインなどの電子通貨は、インターネット、暗号、ハイパワーなPCなど、様々な技術革新とその一般大衆への普及により初めて実現可能となるものであり、将来金融取引に巨大なイノベーションを引き起こし、そのインパクトはインターネットの登場に匹敵するとさえ言われています。
日本では「マネーロンダリング対策が不十分」としてネガティブな側面が強調された報道が多く行われていますが、客観的に考え、法的な整備を行い、可能であれば有望な経済成長の起爆剤として取り込めればよいのではないでしょうか。
ここでは、現状の日本の法律でビットコインなどの電子通貨に関わりがありそうなものを概観し、現状どのような問題があるのかを考えてみたいと思います。
なお、以下の記載はすべて筆者の個人的な見解です。
ビットコインについては2013年12月末にようやく黒田日銀総裁が調査・研究をしていることをコメントするなど、当局側の動きは非常に不明確な段階です。
今後突然大きな制限などが行われる可能性もあるため、規制動向には留意してください。
ビットコインに関連しそうな日本の法律は?
ビットコインが他の「モノ」の売買取引と異なり悩ましい特徴として、はたしてこれが「お金」であるのか、現行法では曖昧である所にあります。
最近の法解釈についての議論では、ビットコインは「お金」ではなく貴金属のような「コモディティ」(モノ、商品)取引である、という考えがあるようです。今後の政府当局の解釈動向が注目されます。
しかし、ビットコインが法解釈の上で「お金」か「モノ」かに関わらず、モノの売買とは異なり、価値の換金機能、価値の保存機能という通貨としての機能を十分に果たしているため、その取引に対してはマネーロンダリングと顧客資産保護の対策が必要となると考えられます。それができないならば、どんなに革新的な技術であっても広く一般社会に受け入れられることは難しいと言えるでしょう。
【ビットコイン普及のポイント】
・反社会的な取引から得られた収益の素性隠し(いわゆるマネーロンダリング)対策
・顧客資産の保護対策
実際、海外では違法取引がビットコインを用いて決済されていたり、取引所や財布サービスを提供すると喧伝しておきながら顧客から大量のビットコインを集め、そのまま雲隠れするケースが多発しています。
以下では、上記2点に具体的に関わる現状の日本の法律として、「資金決済法」、「外為法」、「犯罪収益移転防止法」および税金について簡単に見ていきます。
ビットコインと「資金決済法」
資金決済法は、銀行以外の事業者が決済サービスを提供したり、金券やプリペイドカード、地域通貨などの電子マネーの発行を行うことを規制する法律です。
資金決済法には、大きく2つの柱があります。
- (1)銀行以外にも少額の資金決済を認める箇所(資金移動、資金決済)
- (2)電子マネーなどの発行を認める箇所
(1)銀行以外にも少額の資金決済を認める箇所(資金移動、資金決済)
基本的にお金の決済は、影響範囲が広く大きいため、銀行のみができる業務とされていました。
決済とは、お金を直接当事者同士でやり取りすると非常に不便なため、間に中間業者(銀行など)が入り、一時的に他方の資金を預かり、それを効率的にもう一方の当事者に支払う仕組みです。
特に遠隔地である外国貿易での資金のやり取りには不可欠な仕組みとなっています。
銀行は多数の規制と厳重な検査、当局の管理下となることが求められており、また、顧客が銀行に預けた資産は預金保険などで保護され、顧客は銀行の倒産などの信用リスクをあまり考慮せず決済サービスを行うことができます。
一方、資金決済法は銀行以外でも資金移動(資金決済)を営むことを認めるものになります。当然、銀行のように高い安全性が求められる業務を銀行以外に開放することになるので、以下のような限定的範囲となっています。
- 高いレベルの管理体制ができている事業者であること
- 決済金額は少額のみで、大きな金額の決済の取り扱いは認められない
- 決済を請け負った事業者が倒産した場合、顧客が決済用に振り込んだ資金が消えてしまうので、資金移動(決済)を営む事業者は、決済する金額の相当程度までの資産を準備し、信用の裏付け資産として、別途自分の勘定とは切り離して保有(供託)しないといけない
具体的には、宅配業者の代金引換サービスなどが該当します。
ビットコインとの関係で言えば、以下が論点になります。
ビットコインを預かり、保管するサーバー型のお財布サービスや取引所は、顧客資産の預かりを行い、また決済支援を行うと考えられます。
そのため本法律で課されるような、信用リスク対策としての資産の供託や、大口決済の制限がどの程度適用されるのか?特に資産を預かるという点では、金融機関に課される分別管理規制がどの程度適用されるのかという点も大きなポイントとなります。
例えば、取引所にビットコインを買うために日本円を送金しますが、その時点で取引所が倒産した場合、振り込んだ日本円はどの程度保護されるのでしょうか?日本円ではなくビットコインに交換して取引所に置いていた場合、その所有権は誰のものなのでしょうか?
現状はこのあたりの整備が無いまま、多数の取引所やお財布サービスが提供されており、そしてそのうちのいくつかは実際に顧客資産を預かったまま「夜逃げ」しています。
顧客資産保護を打ち出した安心して使える取引所とお財布サービスが今後のキーポイントになるでしょう。
また、ビットコインは決済手段として使われるものですが、決済時に誰かが間に入り仲介することが不要な仕組みのため(P2P形式)、個人同士などで取引所を使用しないで相対で取引を行う場合は、現状の法律においては資金決済法の対象範囲から外れると考えられます。
(2)電子マネーなどの発行を認める箇所
プリペイドカードや電子マネーは、まずお客さんが日本円を支払い、「ポイント」に交換し、その後その「ポイント」を加盟店で消費するという取引形態をとることから、法律上「前払式支払手段」という名称で呼ばれます。
法律上の前払式支払手段は以下のようになります。
- 国の発行通貨である「円」を事前に預かり、代わりに商品券や金券、電子マネーなどを発行し、顧客はその疑似的な「支払手段」をお金のように使えることを規定するもの。
- 発行する「支払手段」は紙でも、電子的記録媒体でも、サーバー型(サーバーに記録するだけ)でもOK
- 顧客が円と「支払手段」を交換すると、円は発行企業の「預り金」となり、「支払手段」が加盟店などで使われると、「支払手段」は消滅し、発行企業では「預り金」としての円が「収益」として認識される。
- 商品券や金券、電子マネーなどを発行するものは、自身が倒産などしたら発行した通貨価値が失われるので、信用の裏付けとなる資産(発行価値の1/2)を準備して、供託など別途保管しておかねばならない。
そして、発行する前払式支払手段は2種類に分類されています
(a)自家型前払式支払手段
事業者が自分で支払手段としての「ポイント」などを発行し、それを持つ顧客は、その「ポイント」について、発行者とその限定的な関係者のお店でしか使えないものは「自家型」と分類されます。
(b)第三者型前払式支払手段
限定的な範囲ではなく、広く流通し、いろいろなお店で使える、よりお金に近い「ポイント」は「第三者型」と分類されます。
特に「第三者型」は関係者が多くなるため、非常に高い信頼性が求められ、発行には金融庁への登録が必要となります。
なお、乗車券、入場券、食券やゲームセンターのメダルなども「支払手段」と言えますがこれらはこの法律の規制対象外となっています。
資金決済法は、地域通貨などの法律的な裏付けとなるようにと改正が行われ現状の姿になりました。
この法律の想定する発行される「支払手段(通貨)」は、あくまで「発行者」が存在し、その発行者に、発行通貨を裏付ける資産を持たせ、厳格な管理を行うことで、信頼性を確保しようとするものです。そして、「支払手段(通貨)」は使われれば消滅します。
一方、ビットコインは、以下の点で資金決済法の想定する「支払手段」と大きく異なります。
- 発行者が不明(不特定多数によるマイニングの結果であり、存在しないと言える)
- 価値を裏付けるものが何もない
- 一度発行されたコインが市場に存在し続け、流通し続ける
- 顧客(使用者)側が、自発的に「信用」して使い始めた
資金決済法は、裏付けもなく疑似通貨が発行されると、顧客(使用者)が保護できないため、「発行者に焦点を当てて規制をしよう」という発想で作られています。
ビットコインでは法が規制しようとする「発行者」が存在せず、しかも世界中の人々が勝手に使っているため、資金決済法の想定する前提条件とズレが生じています。
裏付けがなく、発行者もいない、しかもP2Pで動いている、これを規制することは非常に難しく、また、そもそも規制する目的はなんなのか、規制する意味はあるのか、そこから議論を始めなければいけない問題だと思います。
ビットコインは今はまだ価格が乱高下する普及のごく初期段階ですが、やがて価値変動が一定の範囲に収れんし、投資対象というよりも、決済手段としての側面が前面に出てくれば、顧客(使用者)保護の観点から規制する意味合いは乏しくなり、マネーロンダリングの点からの規制がポイントになると考えられます。
ビットコインと「外為法」
ビットコインの大きな有用性として海外との決済取引が低コストで実現できる点があります。外為法は外国との送金に関連するため、この法律も考える必要があります。
外為法は、日本と外国との間における「資金の移動」や「物・サービスの移動」等の対外取引に適用される法律です。
過去の外貨不足時は外国との取引を強く規制するものでしたが、何度かの改正を経て、今では以下のことがポイントになっています。
(1)外為法の管理・調整を行う対象は、テロリストや北朝鮮との取引や、武器技術となるような取引を規制するときなどの限定的な範囲
(2)外為法では国際資金移動の統計などを作成する基礎データを収集するために、一定金額以上の外国との取引があった場合に報告義務が設けられている
ビットコインに関係してくるのは主に前者の点で、取引がP2P形式で行われるため、テロリストなどへの国際的な送金が極めて簡易にできてしまいます。
マネーロンダリングへ効果的な対応策を打ち出せるかが、ビットコインが普及していけるかのポイントになるでしょう。
ビットコインと「犯罪収益移転防止法」
犯罪収益移転防止法は、金融機関だけでなく、貴金属取扱業者など幅広い事業者が対象となる、その名の通りマネーロンダリング対策の法律です。
対象となる取引は以下から構成され、下に行くほど厳格な管理が求められます。
(1)規制対象外の取引
(2)特定業務
(3)特定取引その1:通常の(特定)取引
(4)特定取引その2:特にマネーロンダリングの可能性が高いなりすましの疑いや特定国とのハイリスク取引
代金200万円以下の貴金属取引が特定業務であることから、ビットコイン取引はそれと同等かそれ以上の管理が求められる取引になると考えられます。
また、この法律では事業者に対し具体的に以下の項目の管理が求められます。
・本人確認
・本人確認記録の作成・保存
・取引記録等の作成・保存
・疑わしい取引の届出
・取引時の確認事項
・ハイリスク取引の類型の追加
・取引時確認等を的確に行うための措置の追加
特に本人確認と取引記録は7年間保存という規制が定められています。
マネーロンダリングについては国際的にも高いレベルの対策が求められているため、日本国内での対応に加えて、国際的なビットコインコミュニティで協調した対応を行う必要もあり難しい問題です。
しかし取引所などの事業者が適切な対応を行い、優良事業者認定制度などの国際的な枠組みの整備を進めることで違法な事業者を排除していけば、対応は可能だと考えられます。
また、この法律もあくまで事業者が対象となります。
P2P形式による個人間取引のような、中間事業者を介さない取引は規制対象外になると考えられます。
しかしP2P形式の取引の場で違法取引が行われる可能性は容易に想像できるので、中間事業者を介さないの違法取引を特定していけるような仕組みをビットコインコミュニが自発的に用意できなければ、P2P形式で取引が可能なお財布の開発自体が違法となるようなこと(実質的なビットコイン取引自体の違法化)も想定されます。
ビットコインと「税金」
取引実態を税務当局側が把握し難いため、税金面での取り扱いも大きな論点になります。
隠されたかたちでビットコインでの資産の蓄積・移動が行われると、税務当局が補足することは困難です。
ただし、ビットコインは「通貨」ではなく、貴金属などに準じた単なる「モノ」として扱われるべきという意見もあります。
その場合は「モノ」としてのビットコインから「円」などの現実通貨に転換された時点で課税すればよいため、取引所などの換金場所の規制管理をしっかりと行えば対応できる問題になると考えられます。
まとめ
現状の法律は、取引の仲介点である事業者を対象としたものであり、そこを適切にコントロールすることでマネーロンダリング対策などを行う建付けになっています。
現行法は、ビットコイン取引においても取引所などの事業体の規制として有効に機能すると考えられますが、ビットコインの革新的な部分である当事者同士が直接取引を行うP2P形式の取引に対応することは想定されていません。
たとえば麻薬取引など、従来の当事者間での違法な取引は、現行犯として現場に乗り込むことで対応を行ってきましたが、ビットコインのP2P形式の取引は非対面での電子取引が多いため、対応が非常に難しいと考えられます。
だからと言って、P2P形式でのビットコイン取引を野放しにすることは、既に多数の違法取引が行われている実態を考えると、容易に「すべてを規制せよ」という流れに傾いてしまいがちです。
実はビットコインには、その仕組み上取引主体の特定は難しいですが、すべての取引履歴は誰にでも閲覧可能な仕組みになっています。
具体的には、どのアドレスからどのアドレスにいくらのビットコインが、いくらの取引手数料でいつ送られたのかという情報が分かるということです。
その仕組みと、ビットコインの換金に取引所などの事業者が経由されていることをうまく活用することで、P2P形式での個人間取引に一定程度のマネーロンダリング対策を持ち込むことは可能だと思います。
たとえば、取引所が協力し、本人確認などを適切に行い、疑わしい取引主体とその人の持つビットコインアカウント情報のリスト化ができれば、網羅的に取引実態を把握することが可能になると考えられます。
また税金についても、取引所がビットコインから現金に換金された時点で適正な取引証明書を発行し、その情報を税務当局へ報告する仕組みにすれば、脱税はかなり効率的に防げると考えられます。
このように、過去の取引履歴がすべて把握可能であるというビットコインの機能と、現実通貨に換金する取引所などの事業体を適切に規制管理すれば、十分なレベルでマネーロンダリング対策は可能であり、「怪しいので全部だめだ」という議論にはならないと思います。
さらに、お財布サービス自体に本人確認機能を義務化し、ビットコインアカウントと所有者の情報を結合して承認機関に記録してしまう、という事も考えられます。
多くの人にとってビットコインを利用する理由は、匿名だからというよりも、取引コストが低く便利だから、と考えられるため、匿名性にこだわる人からの抵抗は少ないのではないでしょうか。
規制や法律との関係は、当局側に丸投げするのではなく、ビットコインに関わる事業体などビットコインコミュニティが自発的に連携し、対応策を出していくことが何よりも大切だと思います。
以上ビットコインの法的な位置付けについて考えてみました。